コロナ禍と学会運営―第22 回学術大会(早稲田大会)を振り返って―
転載元:『日本台湾学会ニュースレター』第39号、「巻頭言」2020年10月、1-2頁。
(http://www.jats.gr.jp/newsletter/newsletter039-2.pdf)
コロナ禍と学会運営―第22 回学術大会(早稲田大会)を振り返って―
日本台湾学会理事長 松田康博
第22回学術大会(早稲田大会)は、コロナ禍に翻弄されたものの、分科会・自由論題をオンライン書面方式、シンポジウムをオンライン事前録画・YouTube事後配信という方式で実施にこぎ着けた。この決定過程を会員の皆さんと共有したい。
最大の課題は「不確実性」であった。感染防止対策のため縮小開催で行った2020年3月7日の常任理事会は、5月末に行われる学術大会の実施内容を対面で詰める最後の機会だった。しかし、この時点で、果たして2ヶ月半後にコロナが収まっているのか、感染爆発しているのか、会場が使えるのか、わからなかったのだ。
選択肢は、①従来の対面式を準備、②延期、③中止、④オンライン方式、⑤対面式を追求しつつオンラインを準備、の5つあった。まず従来型はないだろうと判断した。延期も日程調整の難しさと不確実性が消えないことから外した。予定通り必ず実施するとしたのが最初の決断である。実施可能な方式が存在している限り、若手研究者の業績になる機会を減らしてはならないと考えたのだ。
次は、④か⑤かの選択である。もしもその時点でオンラインに決めて、2カ月半後実際には対面可能の状態なら、もったいない(「機会費用」発生)。逆に、対面の準備をして、後でオンラインに切り替えると、労力が浪費され、徒労感が募る(「埋没費用」発生)。しかも、完全オンラインに決め打ちすると、開催校である早稲田会場の関与は不要になりかねない。懇親会・会員総会なしで⑤を選択したのはこのためである。
しかも、議論の間に「学術大会を開くなんて非常識。中止にすべき」という強い声があることに気づいた。当時台湾では日本の無為無策に対する失望や怒りの声があった。つまり、この時点で不用意に大会実施をアナウンスすると、「評判費用」が発生する可能性があった。会員が安心できるメッセージを打ち出さなければならなかったのだ。このため、状況を見てオンライン方式に切り替えるというアナウンスが最初になされた。
早稲田会場を使う可能性を残しつつ、埋没費用を抑えるために、シンポジウムのみ対面とオンライン生発信のハイブリッド方式を追求した。ところが、もともと連休明けに会場使用について早稲田の決定を待って決めることにしていたが、緊急事態宣言によりそれをまたずに全面オンラインに事実上切り替えた。
分科会・自由論題は完全オンラインで行うことにしたが、問題は配信方式にするのか、書面方式にするのか、ということであった。当時我々は1カ月後には自分達がオンライン授業をしていることなど想像もできなかった。さまざまな方式を議論した結果、IT弱者を含め全会員が参加して間違いが発生しないのは書面方式であるという結論が導き出された。こうして、機会費用、埋没費用、評判費用の発生を最小限に抑えることができた。
ただ、こうしてきれいに議論を整理すると誤解されるかもしれない。実際の議論はぐしゃぐしゃであり、オンライン方式の技術的な検討は紆余曲折を極めた。ただ、そこは常任理事の皆さんに助けられた。最後に一人ずつ顔を見て、「これで大丈夫だよね」と確認した。みんな本当に頼もしかった。
何よりも、実行委員の皆さんには、この場を借りて改めて感謝の意を表したい。実行委員長の梅森直之さん、委員の明田川聡士さん、家永真幸さん、松岡格さん、新田龍希さん、平井新さん、本当にありがとうございました。また、シンポジウム通訳をこなしてくださった高野華恵さん、周俊宇さん、丁天聖さん、すばらしい通訳に感謝感激です。
最後に、私は台湾に感謝したい。台湾の防疫が成功したことが決定・執行過程に明らかに影響していたからだ。日本台湾学会はコロナ対策で失敗が許されなかったのである。結果として、私の知る限り2つの学会が日本台湾学会を参考にして春の学術大会を実施した。「日本台湾学会方式」は、こうして一度だけの花を咲かせ、実を結んだのである。
★注記:本文は、冒頭に記した媒体から全文を転載したものである。転載を快諾していただいた同誌編集部にこの場を借りて感謝を申し上げたい。